みなさんの中には、高校や大学受験の際、神社やお寺にお参りに行った方も多いのではないでしょうか。両親や学校の担任が天満宮に行って絵馬や鉛筆を買ってきてくれた、なんて人もいるかもしれませんね。お正月はセンター試験が3週間後に迫っているので、初詣も気合入れて参拝した、なんて思い出がある人も......。
今回紹介するハノイの「文廟」は、ベトナムの天満宮。学問の神としても名高い孔子を祀る廟であり、古くはベトナムで最初に開設された大学の跡地でもあります。受験が来年に迫っている学生や、受験生を子に持つご家庭は是非こちらにお参りに行ってみてください。
アクセス
文廟はホアンキエム湖からホーチミン廟に行く道中に立ち寄ることができます。文廟からホーチミン廟まではがんばれば歩けないこともありません。
また、文廟の敷地面積は広く、入口はクオックトゥザム通り側となります。タクシーで反対側に降りてしまったら、かなり歩くので注意が必要です。入口には入場券売り場の窓口があるので、一人3万ドン支払い入場してください。
科挙とは
「言葉は聞いたことがあるけど、意味は分からない」という人も多いのではないでしょうか。学校でも世界史で多少学んだ経験もあるかもしれませんね。
そもそも科挙とは、中国が1300年にもわたって実施続けていた、官僚を採用する試験制度です。日本では採用しなかったのですが、中国の影響が強く浸透している東南アジアでは、科挙を取り入れていた国がいくつかあります。その中でもベトナムは積極的に科挙を実施していた国といえます。
ベトナムでは1442年~1779年の約300年間科挙を実施。この文廟で科挙試験が行われ、1304人の合格者を輩出しました。
科挙はいわゆる官僚試験ですが、その長所は「庶民でもがんばれば官僚になれる」というもの。つまりは公平、平等を謳った試験です。まだまだ貴族階級のコネや金にものを言わせる富裕層が絶対的に力を持っていましたが、この科挙の実施によって、確かに一般庶民が皇族の側近になる事例もあったとされています。
科挙の難易度はどれほど?
「努力すれば地位を変えられる」のが科挙のメリット。では科挙試験とはどのくらいの難易度だったのでしょうか。科挙試験が行われるのは3年に1度。日本の大学受験生の多くは大学2年の秋もしくは3年の春先から本格的に受験勉強をスタートさせることでしょうが、科挙合格を目指している受験生は、そんな生易しいものではありません。
科挙試験は数日間房にこもって厳格に行われます。中国思想からベトナムの歴史、儒教、道教などあらゆる分野が試験範囲。ですので、科挙試験を目指す人は10年、20年単位で勉強することになります。その手の民間塾も開催され、5歳ころから勉強をはじめることとなります。
だからこそ科挙に合格した人は神様扱い。文廟敷地内中央には82の石碑が立っていて、ここには合格者1304人の名前が刻まれています。この82の石碑は2011年に「ユネスコ世界記憶遺産」に登録されました。
奥部には孔子が祀られている廟があります。外国人旅行者もさることながら、圧倒的に多いのはやはりベトナム人。家族で参拝に来ている人もいれば、学生らしき人が一人ないし友人同士で手を合わせている姿も見られます。裏手にはベトナム最初の大学があった古い建物があります。
アオザイ女子学生の姿も
受験生はもちろん、高校、大学の卒業式後にここで記念撮影をする学生の姿も多く見受けられます。1月、3月、6月、9月は卒業式シーズンとなるので、特にアオザイ姿の女子学生でにぎわっています。現在ではベトナムの天満宮的存在。
敷地内にはお土産エリアもあるので、ここで合格祈願と称したものを買っていくのが彼らの恒例です。もちろん旅行者にもおすすめ。なんて言ったって、あの孔子が祀られている廟ですから。何かしらのご利益があるかもしれません。
科挙の廃止
科挙は上述したように、数十年単位で勉強しなければならないため、庶民といえども家計に余裕がある家庭しか勉強できませんでした。また、塾の学費、勉強道具、教科書などを家財を売って賄い、その挙句不合格という人が実際はほとんどだった様子。
そしてベトナムの科挙は1779年に廃止。世界最後に科挙を廃止した国となります。
文廟を歩いていると、当時試験会場までここを歩くベトナム人受験生と、自分の受験時代を重ねて、つい思いに耽ってしまいます。
<DATA>
名称:文廟(Van Mieu)
住所:66 Nguyen Thai Hoc St.
営業時間:8:00~17:0