ベトナム戦争1960年から75年まで続いた、近代歴史上もっとも悲惨だった戦争ともいわれています。そんなベトナム戦争の当時の様子を知ることができる貴重な博物館が、「戦争証跡博物館」。写真や模型、実物の重火器などが展示されていますので、ぐるっと一回りするだけで、ベトナム戦争がどれほどむごいものだったのかを知ることができます。ちなみに、数年前までは本物の胎児のホルマリン漬けなどもありましたが、現在は設置されていません。
戦争証跡博物館までの行き方
戦争証跡博物館は、住所は3区となりますが、聖母マリア教会からは徒歩圏内です。マリア教会、中央郵便局、統一会堂、そして戦争証跡博物館をぐるっと回るのが一つの観光プラン。午前中にこれらをすべて回ることもできるので、短時間で主要名所を網羅することができます。
戦争証跡博物館の特徴
戦争証跡博物館1階では、当時の世界でベトナム戦争を取り上げた新聞や広告が展示されています。日本も共産党をはじめ、多くの新聞、ジャーナリストたちが、非戦争、アメリカ撤退を訴えていました。
ベトナム戦争ではアメリカが撤退したことは知られていますが、武力による撤退ではなく、世界中から非難された世論からの撤退ともいわれています。
博物館内には、他にも戦争当時の町の様子。戦火の中で叫ぶ子供、ベトナム軍およびアメリカ軍の視点の写真、そしてベトナム戦争を地獄に陥れた枯葉剤の被害者の様子を写真展示しています。非常に胸打たれる光景を目の当たりにすることになりますが、これこそがベトナムが世界に訴えたい事柄。目を背けずに、しっかりと見据えて深く戦争について考えましょう。
ホーチミン市内の学生は、高校もしくは大学で必須の課外授業先にこの博物館が選ばれています。ですので、外国人旅行者だけではなく、現地のベトナム人も大勢見学に来ていて、ノートとペンを持って勉強している様子をみることができます。
平和を願い、悲劇を訴える
博物館内は中央が吹き抜けで、ロの字の回廊になっている3階建ての建物。館内には随所に実物の爆弾やライフル、バズーカなどが展示されています。その中でもひときわ目を引くこちらのモニュメントに注目。
写真上のこちらは、爆弾の破片で作られたモニュメント。人の形を模したなんとも悲しげな表情を持つ像ですね。
ミリオタや戦争分野に明るい方であれば、お馴染みの銃火器が多数展示されています。
ジャーナリストの貴重な写真が展示
世界でも有名な戦争ジャーナリストの撮った写真が展示されているのも、戦争証跡博物館の大きな特徴の一つ。写真上のこちらは見たことがある、という人も多いのでは。これは報道写真家の故沢田教一氏が撮影した一枚。題名は「安全への逃避」。1966年にはピュリッツアー賞を受賞しました。他にも戦火の中逃げ惑う子供たちや、悲痛を訴える女の子......。ベトナム戦争では、軍人よりもはるかに多くの民間人が犠牲になりました。ベトナム戦争は簡単に言えば、北ベトナムと南ベトナムの統一戦争。つまりは陸上での戦争が主だったため、各地が激戦区となっていました。
枯葉剤の悲劇を知ろう
枯葉剤とはアメリカ軍が使った化学兵器。ベトナム戦争時に奇形児を生んだとして、現在でも深刻な問題となっています。枯葉剤は除草剤に使われているダイオキシン類を濃度を高めて使った兵器で、実際はダイオキシンに複数の化学品を含めているので、何が原因で奇形児が生まれたかは不明です。ただし、主成分となるダイオキシンは一旦体内に入ると、排泄されることがほとんどなく、胎児の染色体に異常をきたす副作用があります。これによって、2世、3世にわたって奇形児が生まれてしまうというのが通説です(あくまでも通説)。
写真上は「ベトちゃんドクちゃん」。2身1体の結合双生児として、日本人の間でも知られています。この結合双生児の分離手術はホーチミン市内の国立婦人病院で行われましたが、そのときの執刀医4人が日本人でした。手術は成功しましたが、ベトちゃんは26歳の時に死去。ドクちゃんは時折ホーチミンで見かけます(笑)。結婚して二人の子供がいて、それぞれ日本にちなんだ「富士山」、「桜」という意味のベトナム語名を名付けています。
アメリカ軍も多大な被害を被った事実
ベトナム戦争ではベトナム人目線の記事や写真が主ですが、こちらではアメリカ軍目線での写真も展示されています。アメリカ軍がこの南北統一戦争に参加した理由はいくつかあります。北ベトナムはソ連から支援を受けていました。当時アメリカとソ連は冷戦状態にあったので、ソ連のやることに何かと反発するのがアメリカ。なのでアメリカは南ベトナムについたという形です。言ってみれば資本主義と共産主義の戦いともいえる図式です。
枯葉剤の被害を受けたのはアメリカ軍も同じです。アメリカに帰国してから子供を授かり、奇形児が生まれたという家庭も多くあったそうです。枯葉剤の副作用なのか、途中気が狂ったり、発狂したりしたアメリカ軍も多くいたようです。結局、戦争は悲劇しか生まないことがこの博物館を通して再確認することができます。
ちょっとテンションが下がる博物館ではありますが、訪れるその国の歴史を少しは学んでいってほしいところ。事前にベトナム戦争がどんなものだったのかを知っておけば、より戦争証跡博物館で有意義な時間を過ごすことができることでしょう。
知りあいのアメリカ人が、「僕はホーチミンに来て最初にこの博物館に行ったよ」と言っていました。その理由をたずねると、少しバツが悪そうな表情を浮かべて、「いやあ、やっぱりアメリカ人として、知っておかなきゃいけない、行っておかなきゃいけないところだと思ったからだよね」と言っていました。
<DATA>
名称:戦争証跡博物館(Bao Tang Toi Ac Chien Tranh)
住所:28 Vo Van Tan St. Dist.3
電話番号:08-3930-6325