ベトナムの中部フエ。1802年から1945年まで、全13代阮(グエン)朝皇帝が国家を築いていた時代がありました。歴代阮朝は時代によって思想が異なり、ある皇帝は中国を宗主国とし、またある皇帝はフランスを模範としていました。時代によって色合いが異なる阮朝の建築物はどれも興味深く、1993年にはユネスコ世界遺産に登録されました。
その阮朝王宮の敷地内には、フエ宮廷美術館があります。歴代阮朝皇帝が愛でていた高価な代物をはじめ、献上品、調度品などが展示されています。王宮から徒歩圏内なので、是非立ち寄ってください。
阮朝王宮の遺産が眠るフエ宮廷美術館
フエ宮廷美術館は、阮朝3代皇帝の時代に王宮の東側に建てられた建築物でした。1923年に改築がされ、その後内装はできるだけ保存した状態のまま美術館に仕立てました。
フエ宮廷美術館の入場料は4万ドン。日本円にすると約200円ちょっとと安いですが、ベトナムの博物館はどこも非常に安いのが特徴です。しかし、維持費や修繕費などで、今後は値上がりする可能性もたぶんにありますので、実際の料金は当日現地で確認するようにしてください。
美術館に入る前に......
美術館に入る前に、敷地内に置かれている遺産を見て回りましょう。
阮朝時代の中でも19世紀前半は、特に中国の色合いが強い政権でした。当時中国は清という国号でしたが、その清を宗主国としてたびたび朝貢してきました。阮朝皇帝は自国を「チュークオック」と自ら呼ぶようになり、これは中国という意味。つまり、自分たち阮朝も中国の一部と勝手にみなしていたのです。
阮朝王宮や、そのほか歴代皇帝が建てた建築物群には、写真のような人の石像や、三つ入口を構える正門を見かけることができます。
それらも中国を真似たもの。石像は兵馬俑のようであり、正門は紫禁城をイメージしたもので、真ん中の入口は皇族しか入場することができませんでした。
阮朝の時代を感じるフエ宮廷美術館
美術館はワンフロアでそれほど広い面積ではありません。ゆっくりと見学しても30分から45分程度で見て回ることができます。館内は薄暗く、漆で塗られて黒を基調とした趣のある内装。200年前の阮朝の時代にタイムスリップしたかのようです。
この美術館を建てた12代啓定帝は、歴代皇帝の中でも特に美術品に対して愛着をもっていました。当時はフランスの統治下にあったため、啓定帝は幾度となくフランスへ訪れていました。その際にフランスの華やかな建築物群に心を奪われ、帰国するやフランス風の派手な装飾を建築物に施したとされています。
また、思想もフランス寄りで、「その国の美術から礼儀作法や政治が見えてくる」と美術品の管理に非常に力を注いでいたようです。ただし、フエの民は、力でねじ伏せたフランスに従順な啓定帝を見下し、「フランスの傀儡の皇帝」と批判をしていました。
フエ宮廷美術館で保管されている遺産は、すべて保存状態がよく、ほとんど欠損箇所も見当たりません。12代皇帝の美術品に対する強い思いが見え隠れします。
要所に展示品の説明がされていますが、何もないものも多いです。ただし、ほとんどは王宮で使われていた皿や壺、急須など調度品なので、見るだけで何か分かります。
現在のベトナム語の字はクオックゴーと呼ばれるフランスが作ったもの。アルファベットをベースに声調記号を付与したものです。しかし、もともとは漢字文化が発達していましたので。現在でも判子を知るベトナム人も多く、ベトナム旅行ではしばしばハンドメイドのオリジナル判子を作ることもプチブームとなっています。
阮朝王宮と併せて見学
フエ宮廷美術館は、阮朝王宮の敷地内にあり、博物館も周辺にあります。観光プランとしては、朝の午前中いっぱい、王宮、美術館、博物館を巡るのが効率がよさそうです。また、オプショナルツアーで世界遺産の建築物群を巡るものがあります。
半日コースと1日コースに分かれていて、前者は郊外にある建築物を回り、後者は王宮も含まれます。ただし、1日コースでは美術館は行きませんので、おすすめは半日コースで郊外を回ったのち、個人で王宮とその周辺を見学することです。自分の目的にあったプランを事前に考えておきましょう。